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谷敷 謙|美術家


服に残る記憶を素材に、人の存在感を描き出す
溝を彫り込んだ基材の上に生地をのせ、へらで生地の端を押し込んでいく「木目込み」。雛人形などに用いられるこの技法をアレンジし、古着を使って作品づくりを行っているのがSUGINO卒業生でもある美術家の谷敷謙さんです。サステイナブルな時代のアーティストとして注目される谷敷さんのアトリエを訪ねました。

<PROFILE>大学在学中にJFW JAPAN CREATION TEXTILE CONTEST 2008新人賞受賞。株式会社ワールドでVMD(ビジュアルマーチャンダイジング)の仕事をしながら作品づくりを続け、2019年に美術家として独立。水戸芸術館、新宿伊勢丹ReStyle THE POWER OF CHOICEなどで作品展示を行い、2021年9月にはワコールスタディホール京都ギャラリーにて個展を開催。

美術家 谷敷 謙さん アートファブリックデザインコース 2009年卒業
(現:テキスタイルデザインコース)
東京都/東京学芸大学附属高等学校大泉校舎出身
(現:東京学芸大学附属国際中等教育学校)

素材からものづくりを始めたくてコースを選択

服飾の世界に進もうと考えたのは、池袋で待ち合わせ中に街行く人をぼんやり眺めていたときのこと。バンドマン、モードな人、くったりしたスーツを着たサラリーマン。その人が何を好きで何をどうでもいいと思っているか、どんな姿勢で生活しているかが、着ている服の選び方や状態を見ればだいたい分かることに気づきました。「服が、その人を語るんだ」。そう思った谷敷さんは、考えていた進路を変更してSUGINOに入学。パターンなどの基礎を学びながら表現の道を模索し、「本当にオリジナルな服を生み出そうと思うなら素材から作らないと」と考えてテキスタイルを専攻することに決めました。

「どう見せてどう売るか」
を学ぶために

「木目込み」との出会いも在学中です。大学のニット機で制作した布を作品に展開するアイデアを練っていた際に目に留まったのが、家族が手芸店で買ってきた「木目込みパッチワーク」のハンドメイドキットでした。それをヒントに伝統的な技法を自分のアートに昇華させた谷敷さんは、JFW JAPAN CREATION TEXTILE CONTEST 2008で新人賞を受賞。卒業制作でも、木目込みの技法を用いて一辺が3.6mにもなる大作を仕上げました。

作品づくりに没頭する一方、授業を通じて興味を持っていたVMD(ビジュアルマーチャンダイジング)への探究心から、大手アパレル企業の株式会社ワールドに就職。

「どう見せてどう売るかを現場で学びたかったんです。会社員としてVMDの仕事に携わる間も、作品づくりはずっと続けていました」。
2019年に退職しアーティストとして一本立ち。その後も、コラボレーションイベントを行うなど、かつての勤務先とのつながりは続いています。

スケーターたちをモチーフにした作品。Tシャツの部分にはTシャツ、靴下の部分には靴下の生地を古着から探して使う

古着の中にある
記憶や気配を作品に

当初は自作のテキスタイルで作品を制作していた谷敷さんが古着を使うようになったのは、娘さんが生死をさまよう大手術を受けてから。

「幸い命は助かったのですが、一度覚悟したことで、娘が今ここで生きていることを僕自身が実感できなくなってしまったんです」。

そこで谷敷さんは小さくなって着れなくなった娘さんの服を使って彼女をモチーフにした作品を制作。ひと手間ごとに記憶がよみがえり、自分の中に温かな感覚が戻ってきました。

「服は僕にとって画材のようなものですが、絵の具と違って、古着の中には“その服を着て過ごした時間”や“その頃大好きだった人やもの”の記憶が息づいているんです」。

下絵の線画をもとに、支持体と呼ばれる基材の形を作っていく

SUGINOでの日々が
この作風をつくった

ファッションの世界でもサステイナブルであることが求められる現在、古着をよみがえらせる谷敷さんのアートは多くの企業に注目されています。取材にうかがった日に取り組んでいたのは、伊勢丹とのコラボレーションプロジェクトであるパーソナルオーダーの作品づくりでした。

「木目込みの技法を使ってはいますが、パーソナルオーダーは僕にとって“ソリューション”です。発注するお客さまに喜んでもらえて初めて成立するもので、VMDの仕事に近い。一方、アートの役割は“クエスチョン”の提示までで、あとは見た人が自由に感じ取ればいい。どちらが上というわけではありません」。

SUGINOで学び、ファッションを出発点に選んでいなければ、谷敷さんの考え方や作風はまったく違ったものになっていたかもしれません。

陰影を出すために、肌部分の染色にはこだわっている

最後まで生き残るのは
続けられる人

「先日、青山にあるギャラリー・スパイラルで開催した展示に小学生の男の子が来てくれたんです。以前のイベントで僕の作品を見て、『これなら自分にもできる!』とまねして作品づくりを始めたそうで、お母さんが写真を見せてくれました。作品を通じて、『難しそう』という不安ではなく、その子の中の挑戦心や自信を引き出せたことが嬉しくて」と、谷敷さん。

表現の世界は甘くありません。だからこそ、生き残るには、才能や技術だけでなく、あきらめずに挑戦し続けられる力が必要なのです。

「SUGINOにはやりたいことを見つけられる環境があります。皆さんも基礎を学びながら、じっくり考えてみてください」と、未来の後輩たちにエールを送ってくれました。

支持体を、環境にやさしい素材に変更するため試行錯誤中

テキスタイルとアートとVMD。SUGINO時代から谷敷さんが追究してきたことは、一見バラバラに見えますが、実は全てつながっています。服が人を語ると思うからこそ、素材からものづくりを始め、服をその中の記憶ごと作品にし、時には、それがどう相手に届くかまで考えてコミュニケーションをデザインする。あなたの未来にも、きっとあなただけの発見の種が待っています。 さあ、SUGINOで新しい扉を開いてください。